情報理論のための物理基礎
シャノンの情報理論が物理学とどのような縁があるのか,説明する人は少ない.情報量はわからなさを減らすものであり,事象の確率をlogにとって負にすれば情報量の式になる.
logといえばフェヒナーの法則がある.刺激量が多いほど感覚量が多いとする.現代のことばでいえば,情報量の多い刺激ほどニューロンが興奮する.感覚量とは単位時間当たりの伝達量なのだろう.わからなかったことが一気にわかったとき,ニューロンが興奮し,その情報が持つ刺激を伝達し,大きく深く知的な感覚をもたらす.これはしばしばその脳の持ち主を危険ともいえる状態にする.アルキメデスは裸で外に出た.
情報理論で発見を定義してみる.起こる事象を,事象が起きる確率ではなく,事象が起こりうる確率として,半ば経験的な知恵として,わかったことだと.法則として知られていることではなく,まだ法則になっていない見過ごされていたものを,法則として見つける.起こりうる事象が起こるとの情報をつかんで,実際に起きたとき,そこからわかった事実によって,その事象について法則を発見することだと.
このように情報量をめぐる確率には,事象が起きる確率のほかに,事象が起こりうる確率があると便利である.起こるかどうかさえわからないけれども,きっと起こるにちがいない事象は,確率が負となる.勘の領域はまだ起きていないので,確率に負がつく.情報量を多く蓄えたうえでの勘は,負の値が大きいので,発見した場合の興奮も大きい.
すでに知られている法則は,確率が0か1で情報はゼロである.仮に知られている法則のみからなる事象集合を考えた場合,知っているかどうかはブール代数で表現できる.コンピューターに既知の方程式を詰めこんで解を出す場合がそうである.コンピューターに発見させようとするならば,もっともらしく浅くない勘を,式で表現して計算させていけば法則をはじき出せる.勘を段階的に深くしていくアルゴリズムは,潜在的な情報量を多く保てればよいだろう.
物理学における情報量とは,物理学者が情報を探究した結果,法則を発見してどれだけ興奮したかを表す量となる.興奮の量が大きいほど,まだほとんど知られていない法則であるから,発表せずに隠し続けても興奮冷めやらぬ時間を過ごせるだろう.
毎日情報を得ていくと,だんだんと情報量が少ない情報のほうが多くなる.だからこそ,発見は今後も続くにちがいない.神は人間の発見活動をほほ笑んで見守っている.人間に万物のすべてをわかられるその時まで.