膜分隔と世界の存在条件
神が天と地を創ったとき,地には形がなく,空虚で,暗く,霊に満たされていた.地とは私たちが観測できる宇宙のことだ.神は光があるようにと云って光を在らせ,光と闇とを分けた.神は分けた.次の日には天の下の水と天の上の水を分けた.神は分けた.その次の日に天の下の水を集めて陸と海とを分けた.神は分けた.世界は分けられて生まれた.神が分けられたからこそ,世界は存在するようになった.
分けるには境界がいる.分けられたからには境界がある.境界の形は膜である.必ず膜である.素粒子は中身が空虚な膜であり,波面は見えるか否かにかかわらず膜であり,机やキーボードもどのようなスケールで見ても膜である.世界に存在するものの形は,おしなべて膜である.膜は空間を分けるから万物を存在させている.万物は空間を膜で分けてできている.
空間を分かつのだから,長さがかかわる.高校物理で習う式には長さがよく出てくる.力学的エネルギー保存則,万有引力,表面張力.膜の張力がものの硬さであるように,長さが表れない式であっても,考え方をさかのぼると,距離や面積や体積の変化を説明している.そもそも時間は空間変化を表す量なので,長さの変化は現象にとって本質的な量である.
万有引力の式をみてみたい.分母にある長さは2物体間の距離を指すが,それを半径とする球を考え,さらにを掛けて球の表面積にすると理解しやすい.半径の球の表面積をとすると,となり,万有引力と「粒子」の表面積の積が質量であることが分かる.「粒子」が大きいほど質量も大きく,「粒子」の中に空隙があるほど万有引力は小さい.私たちの宇宙の質量はざっと分かっているので,この宇宙の表面積を求めれば,どのくらいの万有引力で隣の宇宙に引っ張られているかが分かる.
さて,別の福音書では,初めにみことばがあり,みことばは神と共にあり,みことばによって世界ができたとある.私たちは,ことばを分節化する.「膜分隔」という語を作ることで,世界の存在条件を説明しようとしている.私たちは,ことばを組織化する.「膜分隔」という語で検索することで,このページをみられるようにしている.私たちは,ことばによって分断する.「膜分隔」という語を広めることで,分かる人にだけ伝わるようにしてしまう.しかし神さまは,みことばで,世界全体を創り出したのである.
私の言語の境界が,私の世界の境界である.と書かれた本のまえがきには,この本は考え方に境界を引くために書いた,と述べられている.また,境界は言語によって引ける,とも述べている.人間はことばで世界に境界を引き,さまざまなものを作り出している一方で,境界を引くことで分断し孤立させることもする.境界が世界を存在させていることをもう少しよく知れば,力や資本や地位の間で対立はなくなっていき,強い存在を承認し,弱い存在を尊重していけると思う.神はすべての人間を分け隔てなく愛するからであろう.